2025.10.25
イベント
2025.10.25
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2025年8月31日に晴れてオープンを果たしたNAGOYA KEIRIN BMX(名古屋競輪場BMXレースコース)。オープンから2か月で、多くのライダーがレースに向けた練習に訪れ、コースの起伏やジャンプ、バンクなど織りなすテクニカルな設計に挑んでいます。
この挑戦的なコースを手掛けたのは、三瓶貴公氏(合同会社TD Tracks)。
コース造成の裏側やライダー目線での設計意図に迫るインタビューを行いました!

三瓶 貴公/Takamasa Sampei
合同会社TD Tracks(BMXコース設計、造成コンサルティング)
【経歴・実績】
1998-2009 チャレンジカテゴリーにて継続的に世界選手権に参加
2010 スイスにて6か月間のWCC UCI BMX短期トレーニングキャンプ参加
2013 ジュニアエリートにて世界選手権に参加
2015-2017 JCF BMX 強化指定選手
2016 YessBMX Factory Team Rider
2016 ATOMLAB Componets Factory Rider
2017 JCF BMX 連盟強化スタッフ メカニック(国内大会除く)
近年はアジアを中心としたレース活動を行う。シンガポール,マレーシア,インドネシア,タイなど、アジア地域のつながりが強くなり、アジアから多くの選手が来日、大会に参戦してくれるようになりました。BMX歴23年の経験と知識をもってBMXレースアンバサダーとして活動。BMXレース専用フレーム、コンポーネント開発に携わる。

私がこのコースを設計する際に掲げたコンセプトは、「アジア大会に対応できるプロ仕様のトラックを基盤にしながら、大会後は初心者から幅広く活用できるコース」です。
名古屋競輪場という都市型の立地を活かし、国際規格に準拠した設計を行う一方で、難易度を調整できる要素を取り入れ、誰もが安全に楽しめる環境を整えました。
この設計の実現には、私自身30年間にわたり世界中のトラックを走り、選手として培った経験があるからです。
世界選手権や国際大会で得た知識、そして東京2020オリンピックでBMXトラックのスーパーバイザーを務めた経験を活かし、机上の理論だけでなく、「実際に走る感覚」を設計に反映させました。
スピード感、ジャンプのリズム、安全性のバランスは選手としての視点がなければ生まれなかった部分です。
さらにプロライダーが大会で最高のパフォーマンスを見せることができる一方、初心者が安心して挑戦できるラインを確保することで、幅広い層が同じ空間で楽しめる設計を目指しました。これこそ、私にしかできないアプローチであり、このプロジェクトの核となっています。

初心者から上級者まで楽しめるように最も重視したのは、段階的な挑戦の連続性です。
第1ストレートはアジア大会対応のプロ仕様をベースに、同一セクション内に複数の走行選択肢を設けました。
第2ストレートにはキッズでも挑戦できる大きさのジャンプを備えたフロー重視の”アマチュアセクション”スピードと精度を要求する”プロセクション”そして、両ラインが集合する最終ジャンプで男女プロ選手のダイナミックなジャンプが見られる設計としました。
第3ストレートにはローラーやダブルを組み合わせたリズムセクション。しっかり上手にプッシュすることでビックリするぐらい加速できる日本にはなかった少し深めのヨーロッパ風のリズムセクションを設置しました。
第4ストレートは世界選手権等でトレンドの形状とし、短いながらも様々なこなし方で走行できる設計としました。
各コーナーはストレートで得たスピードを落とすことなくノーブレーキでも無理なく進入できるプロファイルとし、様々なラインで走れるようクリアランスを確保しました。選手として世界各地のトラックを走って得た知見を活かし、幅広い層のライダーに求められる内容を具体的に落とし込み、楽しさと安全の両立を図りました。アマチュア選手には一部チャレンジングな部分もありますが、国外のレースを見据えた練習ができるコースです。

最も難しかったのは、競輪場という既存施設の隣というスペース的に制約の多い中で、アジア大会対応のプロ仕様と日常運用の普及性を同時に満たすことでした。
特にスペースとジャンプの高低差の配分、安全な盛土作業のためには緻密な調整が必要でした。ジャンプ飛び面の曲率とトランジション長は、速度域が広がるほど事故要因になり得るため、机上の数値だけでなく自身の感覚をフィードバックし、最適な形状に成形しました。
印象に残っている課題は、アマチュア選手とプロ選手が共有するジャンプの安全性の許容値です。どの程度までアジア大会仕様としてアグレッシブにするかです。アジア最速を決める大会にふさわしいレベルの難易度が求められる中で女子選手やアマチュア選手の安全性も考慮しなければならないのと、小さすぎても男子プロ選手の速度域ではかえって安全でなくなるため、その両立が求められました。

名古屋競輪場BMXレースコースの特徴は、都市型施設の利便性の中に、プロ仕様の手応えと日常の使いやすさが共存していることですかね。コースへのアクセスも良いですし、学校帰りにサッと乗りに来られるのは学生ライダーにはとても嬉しいことだと思います。
現状、日本では最大級に難易度高いですし、攻略のバリエーションも複数用意してあるので、たとえ毎回ここで乗っていても飽きないと思います。
また近年の雨量増加への耐性を高めるため、表層の配合、水抜きの細部までチューニングすることにより、雨天時でのレースおよび練習走行も可能としています。メンテナンスも水撒きで適度に保湿しておくだけで維持できるのはこのコース最大の特徴でもあります。

このコースをきっかけに、名古屋のBMX文化が”競技の頂点を目指す場”と”日常の遊びとして親しむ場”の双方で広がっていくことを願っています。
様々な世代やレベルの選手が交わるコミュニティも形成できるとともに、長期的には名古屋から全国へ、そして世界の大会へ挑戦、好成績を収める選手が生まれる”ルート”になるといいですね。